「……。」
どこかに、何かすべての感情を忘れて来てしまったような、そんな感じ。
コーヒーを飲みながら思い廻らす。
大丈夫。半年近く前の日常に戻っただけ。
この半年間がある意味で〝異常〟な毎日だったんだ。それが単に日常に戻ったんだ。
頭の中に正樹が浮かんだ。
いいじゃない。これでドタバタとした忙しい、感情に振り回される日々から解放されたんだもの。
淡々と暮らしていける毎日がまた戻った。
何ももう余計なことなんて考えなくてもいい。余計な感情だって生まれない。
何が裏切らないよ…
信じるよ…
馬鹿馬鹿しい。そんなこと、最初から存在しないって分かっていたはず。
だって人間は裏切るものでしょう。
その時、一気に昨日のことが思い出された。
結局、正樹は私のことなんて遊びだった。中途半端な箸休め、と言ったところだろうか?
だって大学生のガキなんだもの。
こんなに可愛げのない女なんだもの。
つまらない、冷めた人間なんだもの。
最初から好きになるはずなんて、ありえないんだから。
正樹が悪いとか、ひどいんじゃない。油断していた私が全部悪い。
自惚れもいいところ、自信過剰も甚だしい。
「ふっ…」
私は空気を吐くように笑って。ぼんやりとテレビを見つめた。
大丈夫、何もかも忘れよう―――

