電車を降り、駅を出て少ししてから私は足を止めた。
「あー、はい。そうです、はい、はい…」
少し先にいるスーツを着た男の人、混み合う道を電話をしながらスタスタと歩いていた。
「あれ、正樹…」
あの後ろ姿、間違いなく正樹。
どうしてこんなところに…?そう思いながら私は無意識のうちにそっと正樹の後を追った。
正樹は途中で大学の方とは反対へ向かった。
どうしよう、このまま後をついて行く?
私は時間を確認する。
まだ、少し時間あるしギリギリに戻って来れば大丈夫かな。
ていうか尾行だなんて、なんだか悪趣味ね。
それでも今は正樹の後姿を見失いたくないと思った。
そしてしばらく歩いて正樹はお花屋さんの前で足を止め、誰かを待っているかのようにあたりをキョロキョロしていた。
正樹から見えないように隠れていたつもりだったが、一瞬正樹と目が合ったような気がした。
「あ、やば。」
そう思った時にはもう手遅れ。さすが正樹。
「紗子…」
正樹がそう私の名前を漏らしたとき、「ごめーん!」という声が聞こえて来た。
別に騒がしい街の中、特に気にすることもないはずの言葉。
それなのに、その言葉と声がやけに耳についた。
その時、妙に胸がざわついたのはどうしてだろうか。
ひんやりと冷たい風に全身を包み込まれたような気がした。

