それなのに、マスターは私の前から突然姿を消した。
何十年も前の、両親と同じように―――
その年、大学1年の夏、梅雨の時期のことだった。
その日はどしゃ降りの雨。
大学のちょっとしたレポートに追われていた私は、1週間ほどお休みをもらっていた。
そして、久々の出勤ということもあって、天気の悪さとは裏腹に朝から気分がよかった。
いつものように家から歩いていき、お店が少し見えたところで何か違和感を覚えた。
お店が違うと…。
私はたまらずに、走った。
何かとてつもなく嫌な予感がした、さっきまでの気分とは違い、どんどんと私の心に分厚い雲がかかった。
「――えっ…」
私は、お店の前に着き、息をのんだ。言葉を失った。
お店の中が空っぽだったのだ。
それだけじゃない、外の看板も、周りの観葉植物も。
「なにこれ…」
私はドアをがちゃがちゃと開けるが、鍵がかかっていてびくともしなかった。
急いで裏口へ回るものの、やはり鍵がかかっていた。
普段閉められていない鍵に、空っぽのお店。
私はパニック状態になる。
急いで、スマホを取りだし、マスターの携帯へとかけるが一向に繋がらなかった。
「どういうこと…?」
私は、軽い貧血のようなものに襲われて、柱へ手をかけた。
その時、目線を下に向けようやく気が付いた。
ドアの隙間に、白い封筒のようなものが挟まっていることを―――

