手紙を開けることはとても怖かった。もう、何もかも受け入れなくてはならない。

けれど、やっと…真実を知ることが出来る。


「今…読んでもいい?」

私は小さく呟く。
と言うより、一人で読むことは出来ない。正樹が隣にいないと不安だ。

「もちろん。」

正樹は優しくそう言った。


私は綺麗な水色の封筒の封を開ける。
中には何枚もの便箋。そしてマスターの字。

私は読む前に一度目を閉じ、深呼吸をした。


【紗子へ

久しぶりだね、紗子。元気にしていたかい?

突然、こんな風に手紙を受け取って、きっと訳が分からないと思う。
僕は紗子に謝ることだらけだ。本当にすまない。

紗子はこの手紙をとある男性から受け取ったんじゃないかな?
その人は僕の甥で、森岡正樹くんだ。

正樹にもしかしたら、何か聞いているかな?

それなら話が重複するかもしれないけれど、紗子にきちんと話します。


紗子がこの手紙を読んでいるころ、僕はこの世界にはもういない。

僕は今、末期の癌でね。もう先も長くないみたいなんだ。

だからあと2週間ほどでお店を引き払うことにしました。
紗子が、バイトお休み期間になるね。

多分、紗子には何も言わずに去ると思う。というより、そうするつもりです。

ひどいよね、本当に。
紗子は僕をやっぱり恨むのかな?

きっと許せないよね、何も言わずに去るなんて。

本当にごめんなさい。


ずっとずっと考えてました。
病気のことも、お店のことも紗子にちゃんと伝えるべきかどうか。

伝えようと思ったこともあった。
でも紗子が時折僕に見せる、ホッとしたような優しい表情を見ると何も言えなくなるんだ。

その表情を壊してしまうんじゃないかってね。