それからというものの、私はマスターの元へ―――カフェ・リベルタへと通った。
リベルタとは、イタリア語で『自由』、マスターらしいなと思った。
「そうか、特待生か。」
「うん。」
「紗子は賢いな。」
年が明け2月、私は地元の有名私立高校からの推薦試験に合格した。
成績もトップで通過できたため、特待生で学費は免除。
高校が管理する寮にも無償で部屋をとることが出来た。
「施設はもう出るの。」
「そうか。」
マスターはやはり多くのことは聞かなかった。
だけど、それがいつも私に安心を与えてくれた。
私は自分の境遇について、ゆっくり長い日にちをかけて話した。
マスターはそんな私も受け入れてくれた。
進学するこの高校はレベルが高い割に校則が緩いことで有名だった。
バイトも認められ、寮生でも門限は9時。
しかしその緩さからか、留年生や退学を余儀なくされる生徒も多いと聞く。
つまり、自分でしっかり自己管理をしなくてはならないということであった。
でもそれが私には合っているんじゃないかと思った。
「ならお金の心配は、生活費だけか。」
「うん、アルバイトする。」
正直不安が無いと言えば嘘になる。
けれど、自分で生活をやり切りたかった。
「時給850円…いや880円。どうだ?」
「え?」
「紗子、ここでバイトするか?」
「…!」
私は、読んでいた文庫本から顔をあげた。
「いいの…?」
「紗子がいいなら。」
「でも、マスターってアルバイトとってるの?」
「んー、紗子がもしやるなら2人目かな。」
マスターはいつもの柔らかい笑顔でそう言った。
私は立ち上がって、頭を下げる。
「お、お願いしますっ…」
「やだなぁ大げさだよ。」
私はまたしてもマスターの優しさに救われたのであった。

