彼とはとくに何もなく、私はそのまま高校を卒業した。
 卒業式はただ座っているだけで、私にとっては苦痛だった。
 人数が多いから、一人一人ステージに上がって卒業証書をもらうことはない。唯一の運動は指示された起立と着席だけ。
 私は卒業式の間、二列前にいる彼の頭をじっと見ていた。
 何があっても全く動かない。小説を読んでいるときと一緒。
 式が終わって教室に戻ると、友達は「お別れだね」と言って大げさに泣いていた。ほかにも女子は泣いている子がほとんど。
 私は泣いていなかったと思う。
 だって、悲しくない。
 教室では一人一人に先生が卒業証書を渡して、短い話をして終わり。
 全部終わったあと、私は持ち物を全部カバンに詰め込んだ。
「そうだ小説」
 私は教科書と一緒にしまった小説を取り出した。
「これ、ありがと」
 彼に、借りた小説を渡す。
「全部読んだ?」
「ううん」
「それならあげるよ」
「いいの?」
「続きが気になるだろうし」
「うん」
「僕はもう何回も読んだから」
「そうなの?」
「そう」
「でも、お気に入りでしょ?」
「それなら、卒業プレゼント」
「ありがと」
 こうして私と彼は別れた。