夏休みが終わっても夏は終わらない。
 教室には暑さでやる気が無い生徒で埋まっている。
 男子はワイシャツの裾をズボンから出しては先生に怒られ、女子はスカートの丈が短いと怒鳴られる。
 朝から私は下敷きで自分に風を送る。暑すぎて勉強なんてする気にもならない。
 そのときも彼は隣で小説を読んでいた。
 いつもと変わんない。変わったのは小説の題名と中身ぐらい。
「面白い?」
「なにが?」
「その小説」
「これ?」
「うん」
「面白いよ」
「どこらへんが?」
「自分が予想していることと違う展開になっていくところが」
「よくわかんない」それから私は机の上にグタッとうつ伏せになる。
「そう」
「うん」
「本は読まないの?」
「うん」
「どうして?」
「体を動かさないのって嫌いなの」
「だから陸上部なんだ」
「うん」そう言ってから下敷きで扇ぐのをやめ、彼を見る。
「なんで知ってるの?」
「夏休みにトラックを走ってたから」
「見てたの?」
「見てた」彼は頷いて、
「行きと帰りにね」
「あ、やっぱり部活に来てたんだ」
「そうだけど」
「走ってると校舎から音がするから」
「うるさかった?」
「ううん」
「それならよかった」


 それからテストがあって、文化祭があって、体育祭があった。
 私は体を動かす体育祭はよかったけど、見てばかりの文化祭はそんなに面白いとは思わなかった。
 文化祭では吹奏楽部が演奏をしていた。
 友達に誘われてまた見に行く。
 今度は市民ホールじゃなくて、学校の体育館のちっぽけなステージ。
 彼はまたソロ演奏をしていた。
「もしかして、上手いの?」
 一度だけそう聞いたことがあるけど、「下手だよ」彼はそう答えた。
「じゃあなんでソロ演奏してるの?」
「なんでだろう」
「なにそれ?」