私は空を見る。青く澄んだ空。揺れる白い雲。
「それでいいの?」
「なにが?」
「しおの選んだ選択は一番大変よ?」
「この子はおろさないわ」
 私は少し膨らんできたお腹をそっと押える。
「別に、おろせとは言ってないわよ」
「じゃあ何が?」
「しおはまだ若いんだから結婚するチャンスはいくらでもあるのよ」
 姉は私に言う。
「でも、」
「別に子供が一人いても、あなたのことを好きなってくれる男性なら、」


「でも私が駄目なの」


 姉は私のことをじっと見る。
「いくらその男の人が私のことを好きになってくれても、どんなに愛してくれても、私がその男の人を好きになることは出来ないの。絶対」
「なんで?」
「私は普通の人と違って、少し変わってる。
 だから『好き』ということも普通の人とは違う。
 私は誰かを『好き』になることは、きっと人生で一度だけ。
 きっと私の体はそう出来てる。
 だからもう、誰かを『好き』になることは出来ないの。
 私が『好き』になった人は彼だけ。
 これは先にも後にも、ずっと変わらない。
 これは絶対。
 絶対」
 姉は私の肩にそっと手を置いた。
「あなた今まで、自己主張という自己主張をしたことなかったのに、すごいことを、ずいぶんときっぱり言うじゃない」
 それから姉は右手を私の頭の上に置く。
「大丈夫。私は誰が何と言おうと詩織の味方。あなたは安心してその子を産みなさい」
 私は小さく頷いた。
「それから泣くのはやめなさい」
「うん」
「あなたはこれからお母さんになるんだから」
「うん」
 私は涙を拭う。