私は大学を辞めて、走ることもやめた。そして彼と一緒に住み始めた。
 お母さんはただ「あなたがいいと思うことをしなさい」とだけ言った。
 そして、彼も大学を辞めた。彼のお父さんも叔母さんも反対はしなかった。
「どうして辞めたの?」私がそう聞くと、彼は「やりたいことが見つかったから」と答えた。
「君もどうして大学を辞めたの?」
「私も」
「私も?」
「やりたいことが見つかったから」
「走ることは?」
「走ることもやめた」
「どうして?」
「もっと大事なことがあるから」
「大事なことって?」
「あなたの奥さんになること」
 いつの間にか夏がきていた。
「僕でいいの?」Tシャツ姿の彼が聞く。
「あなたがいいの」その隣で私は答える。
「君の未来設計とは違うよ?」
「修正したの」
「修正?」
「うん」
「どんなふうに?」
「大学のあとにあなたの奥さんになるが入っただけ」
「君の未来設計のように幸せになれないかもよ?」
「幸せにするのよ」
「幸せに?」
「あなたと私で、」
「君と僕で?」
「そうふたりで」
「ふたりで」
「私の未来設計よりも」
「なれるかな?」
「なれるわよ」
「なれるね」
「うん」
「ふたりで」
「うん」
「幸せに」
「うん」