彼の部屋は私の部屋と似ていて、何もなかった。
 椅子もテーブルもない。あるのは最低限のものと、小さな机と、本棚と、簡易ベッドだけ。
「北海道に来るのは初めて?」
「うん」
「迷わなかった?」
「少し」
「連絡してくれれば迎えに行ったのにな」
 彼は残念そうに言う。
「でも、」
「でも?」
「驚かしたかった」
「僕を?」
「うん」
「もう、十分驚いたよ」
 私は笑って、彼も笑う。
 その後、二人で壁に寄りかかって座る。
 彼は「椅子がなくてごめんね」と言う。私は首を振る。
「ないほうがいい」
「いいの?」
「うん」
「ふ~ん」
 彼のそばによる。
「いつ帰るの?」
「六時の電車」
 彼は時計を見て、
「じゃあ、そんなに余裕はないね」
「うん」
「残念だな」
「なんで?」
「もっと時間があったら街を案内できたのに」
「いいの」
「いいの?」
「あなたの隣にいれればいいの」
「それだけでいいの?」
「それだけがいいの」
 あと一時間。