私は暗くなった部屋の中で、クッションを抱えてじっとしていた。
 もう何時間も動かない。
 お姉ちゃんが言ったとおり、彼のことが頭から離れない。
 私の目の前には携帯が開きっぱなし。明るかった画面はとっくの昔に真っ黒になっている。それでも動けない。暗くなった画面の奥では、教えてもらった彼の番号が表示されたまま。
 私はクッションの中に顔を埋める。
 それでも落ち着かない。
 もし、嫌いと言われたらどうしよう。
 いきなり携帯が鳴り出し画面が光る。私は慌てて顔を上げる。
 違う。メール。友達から。
 無視して私は顔を元に戻す。
 もし、断られたらどうしよう。
 もし、彼に恋人が出来たらどうしよう。
 軽く涙が出た。
 私は携帯を手に取る。下唇を軽く噛む。そして、
 ボタンを押した。
 耳のそばで電子音が鳴る。
 早く出て。でも出ないで。
『どうしたの?』
 そして彼が出た。
「……」
『……』
「私」
『わかるよ』
「うん」
『井上さんでしょ?』
「うん」
『どうしたの?』
「……」
『……』
「私、」
『私?』
「あなたのことが、」
『……』
「…好きみたい」
『……』
「……」
『えっと、それは告白?』
「…たぶん」
『……』
「……」
『…えっと、ありがとう』
「うん」
『……』
「……」
『僕は、』
「うん」
『僕も、』
「うん」
『…君のことが好きかも知れない』
「本当?」
『本当』
「ありがとう」
『……』
「……」
『……』
「……」
『…泣いてるの?』
「うん」
『僕が泣かしたの?』
「うん」
『ごめんね』
「ありがとう」
『……』
「ねえ、」
『……』
「……」
『どうしたの?』
「……」
『……』
「また会える?」
『……』
「……」
『次は夏休みだね』
「……」
『……』
「今、会える?」
『今?』
「うん」
『……』
「会いたいの」
『……』
「あなたに会いたいの」
『……』
「あなたの隣にいたいの」
『……』
「……」
『今から迎えに行くよ』
「……」
『……』
「ありがとう」


 それから、彼は私の家に来た。
 私はこっそり家を抜け出し、彼を迎える。