次の日は駅前で待ち合わせをした。
 私が五分前に着くと、彼はもう来ていた。
「おはよう」
「うん」
「そろそろこんにちは。かな?」
 彼は駅前にある時計を見ながらそう言った。
「寒くない?」
「たぶん」
「でも、手が赤いよ」
「うん」
「どこかで暖まろうか?僕も寒いし」
「うん」
 それから二人で小さな喫茶店に入った。一番奥の窓際の席に座る。彼と向かい合う感じで。
「ご注文はお決まりですか?」
 女の店員さんに言われ、彼は「カプチーノ」と答えた。私は慌てて「同じの」と言う。
「以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
 彼がそう答える。私は黙ってその様子を見ているだけ。
 店員さんがいなくなってから私は彼に聞いた。
「カプチーノってなに?」
「え、知らないの?」
「うん」
「知らないで注文したの?」
「うん」それから私はまた聞いた。
「コーヒー?」
「う~ん、コーヒーに泡立てた牛乳を入れたものなんだけど、僕は苦いのがダメだから、いつもカプチーノなんだけどね」
「苦くないの?」
「そうだよ」
「そうなんだ」
「そう」
 他にお客さんがいないからだと思うけど、注文したものはすぐに運ばれてきた。営業スマイルの店員さんがオーダーを机に置いていく。
「チョコ?」
「違うよ」
 彼は笑いながらそう言った。
 私は戸惑いながらも、口に運んだ。
「……嘘ついた?」
「嘘?」
「うん」
「嘘って?」
「苦い」
「あ、カプチーノ?」
「うん」
「嘘はついてないよ。これでも苦くないほうなんだけど」
「でも苦い」
「コーヒー飲んだことある?」
「ううん」
「ないの?」
「たぶん」
「そっか、コーヒーはこれよりもずっと苦いよ」
「そうなの?」
「そう」
 彼はカップを持ち上げて、中身を飲む。私はその姿をじっと見る。
「砂糖を入れたら?」
「うん」
 一杯目、苦い。二杯目、まだ苦い。三杯目、もうちょっと。四杯目、うん、これなら大丈夫。
 今度は彼が私のことをじっと見ていた。
「ずいぶん砂糖を入れるんだね」
「私?」
「そう」
「入れすぎ?」
「ちょっとね」
「そうなんだ」
 でも、私はこれくらい入れないと飲めないから仕方がない。
「これからどうしようか?」