「なんで?」
「限界を感じたから」
「なにそれ?」
「言ってみたかっただけ」
 それからいきなり言われた。
「うちで休んでいかない?」
「うちって?」
「僕の家」
「近くなの?」
「さっき教えたよ」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「何か飲み物出してくれるの?」
「麦茶なら」
「それなら行く」
 そう言ってから失敗したと思った。
 よく考えたら、男の子の家なんて小学校のとき以来行ったことがない。「どうしよう」そう思ったけど、男の子の家ってどんな感じなのか気になって、そのまま後ろをついて行った。
 彼は汗をびっしょりかいていて、オレンジ色のTシャツが濡れていた。
 それを見て、もの凄く触りたくなる。
 思わず右手が出て、彼の背に触れる。
「どうしたの?」
 彼が振り返る。慌てて手を引っ込める。
「なんでもない」
「そう」
「うん」
 今度は勝手に首筋に目線がいく。うわ、舐めりたい。それを抑えるのに必死だった。


 彼の家は二階がある貸家で、本当に近かった。同じ家が三軒建っていて、彼の家はその一番端。
「ただいま」そう言ってから私のほうを向き、「どうぞ」と言った。
「お邪魔します」
 玄関は狭くて、戸を閉めたとき彼の背中にぶつかった。濡れたTシャツが私の顔に触れる。彼は振り返り、
「あ、ごめん」
「うん」
 彼はそのまま家に上がって、すぐのドアを開けた。そして中に入る。私は恐る恐るあとについて中に入った。
 中にはテーブルと椅子が三つ置いてあった。
「どうぞ」
「うん」
 言われるままに椅子に腰掛ける。
 彼は戸棚から透明のコップを二つ出し、麦茶の入った容器を冷蔵庫から取り出してテーブルの上に置いた。
「牛乳もあるけど、どっちがいい?」
「どっちって?」
「牛乳と麦茶」
「牛乳」
 彼は再び冷蔵庫を開け、牛乳パックを取り出して、それもテーブルの上に置いた。
 トクトクといういい音を立てて彼は私の目の前にあるコップに牛乳を注いだ。私はただその様子を見るだけ。
「牛乳好きなの?」
 今度は自分のコップに麦茶を注ぎながら彼が聞いてきた。
「背を伸ばしたいから」
「毎日飲んでるの?」
「うん」
「背は伸びた?」
「ううん」
「じゃあ効き目ないんだ」
「たぶん」