こんなところでバイトして、なんになる。貯めたお金を使われて、頭の可笑しいんじゃないかと思うような兄の嫁が乗り込んできたりなんかして。私は、なんのためにここにいるのだろう。少しでも力になりたくて、お金を入れてもかたっぱしからあの兄らは問題を起こす。疲れたのだ。大丈夫。何とかなる。妹がお金を貯めると家を出ていったときも、私は兄なんかと呪った。いろんなものを諦めた。言い訳じみているけれど、わからなくなった。



 どうして、生きているのか。
 どうして、先生と一緒にいると泣きたくなるのか。





「いつだったか、先生は鮫の伝承を話してましたよね。身を投げて鮫となり、守り神になったっていうあれ。知らないひとの方が多いのにって驚きましたよ」





 平和に暮らしたかった。少しずつ借金を返していって、たまに気晴らしに出るような日々。

 問題ばかり起こす兄と、うんざりして、それでいて小さな母。私は、大切だった。だから、守りたくて。大学のこともあったけど、前を向いた。働いた。それなのに――――。




「側にいるだけじゃ、何もできないんです。私が、都会に出て妹とお金を貯めて――――だから、先生」




 今まで、いろんなことがあった。

 私はそんな経験がないから、優しさに弱い。とくに先生に。黙って話を聞いて、ときには助言をくれて、側にいてくれる先生が、私を捕まえようとする。先生はそれが
意図的ではないとはいえ、私にはそう思わせる。

 妹が契約してくれたアパートで、二人。お金を貯める。人並みに、笑ったりなんかして。



「さよなら、です」
「――――どうしてですか」
「っ…」




 まさか。