それはきっと始まりでしかなく






 振り替えってすぐ、どうして、と思った。泳ぐよう格好じゃないのに海に入ったりなんかして。馬鹿なんですか。そういいたかった。なのに、佐野先生は濡れるだなんてお構いなしで私を抱き締めた。

 何故。どうして。





「僕は陽さんとさよならなんかしたくありません――――海になんか、返しません」





 覚えていますか。

 私を抱き締めたまま、佐野先生がいう。初めて会ったとき、僕がなんていつまたかを。
 そういわれて私は「人魚って」いわれたことを思い出す。何を馬鹿なと思った私をよそに、佐野先生がいったのだ。





「僕は陽さんが好きです。陽さんが好きなことをするのを僕は望むし、応援する。けれど、さよならだなんて言わないで下さい」
「佐野先生は狡いです…どうして今それをいうかなぁ……」





 本当に、狡い。

 ここを離れようと、そうして決めたのに。
 先生といると苦しい。苦しいけど、どうしてこう、甘いのだろう。


 どうして、好きだって思うのだろう…―――――。