その後、杏奈は空腹との戦いの末に眠りに落ちた。


 最初は目を閉じて考え事をしていたのだが、いつの間にか夢の世界に引き込まれてしまった。


 そして奇妙な夢を見た。



「うわ~、美味しそう! ……夢じゃないよね?」


 目の前には分厚いステーキや豚肉の生姜焼き、チョコレートケーキなどが並んでいる。


 杏奈は目移りしながらも、まずはステーキにかぶりついた。


 噛むたびに、じゅわっと肉汁が溢れ出てくる。


 美味しい!


 やっぱりお肉は最高だね。



「……杏。ねぇ、杏? 俺にも分けてよ、今度こそ」


 どこからともなく、悠介が姿を現した。


 あれ?


 悠介、綺麗な顔に戻ってる。


 杏奈は少し躊躇したが、料理を一緒に食べることにした。



「いただきまーす。……うん! やっぱり肉は美味しいなァ」


 豚肉の生姜焼きを食べる悠介の顔に笑みが広がる。


 唇が油でギトギトになっていた。


 やだ、悠介ったら……下品!


 杏奈は横目で彼氏を見やりながら、料理を次々と平らげていく。


 しかし、いくら食べても満腹にならない。



「おかしいなー。ねぇ、悠介。お腹いっぱいになった?」


 隣りで牛丼を夢中でかきこむ悠介に尋ねる。


 すると、彼はピタリと箸を止めた。



「……くっ! フフフ……」


「どうしたの? 悠介ったら……いきなり笑わないでよ」


 肩を揺らしながら笑う悠介を不気味に感じ、思わず声を尖らせる。


「ふふふふっ……あっははははは!!」


 いっそう笑い声が大きくなったと思った途端、悠介が勢い良くこちらを振り向いた。



「お前の肉はさぞかし旨いだろうなァ!!」


「……えっ?」


 杏奈は目を見開いて固まった。


 悠介の形相が豹変し、大きく裂けた口はまるで蛙を丸飲みする蛇のようである。


 喰わせろ、喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わさせろォォォ!!



「ひっ……いやぁああああッ!」


 そして、杏奈は唐突に夢から覚めた。