秘密実験【完全版】




 杏奈は反射的に身をすくめて、扉から入ってきた人物を見上げる。


 ……ピエロ?


 その男の第一印象はそれだった。


 ピエロの面を被り、アロハシャツを羽織っている。


 チリチリに縮れた髪の毛は赤みの強い茶色。



「グッド・モーニ~ング!!」


 ピエロ男は片手を突き上げながら、酒焼けのようなしゃがれ声を発した。


 ずいぶんと柄の悪いピエロだ。


 杏奈は訝しげに思いつつ、注意深く言葉を選んだ。



「……あなた、誰? どうして私なの?」


「俺? 俺はなァ……見ての通りピエロ様だ! どうしてお前が選ばれたのかは、知らねぇ」


 ピエロ男はそう言って、喉の奥から笑い声を漏らした。


 耳障りなガラガラ声に、嫌悪感を催さずにはいられない。


 杏奈はキュッと唇を結び、目の前に立つ男を睨みつけた。



「木南(きなみ)杏奈、十七歳。……お前は、とある実験の被験者に抜擢された」


 ──実験?  被験者?


 意味が分からずキョトンとする杏奈をよそに、男はさらに言った。



「まっ、せいぜい頑張れや! 俺は、リーダーの指示に従うコマネズミだけどな?」