「じゃあ、何で……」


 殺さないの?と言おうとして、杏奈は慌てて口を噤んだ。


 煽りに受け取られて、本当に殺されてはたまらない。


 男は黒焦げになったワンピースを見つめていたが、やがて杏奈に視線を移した。



「……こんなに似合うとは思わなかった」


 質問には答えず、男は唸るように言葉を発した。


 似合うって……ワンピースのこと?


 杏奈は口にこそ出さないが、代わりに目を瞬かせた。


 しかし男はそれ以上、何も言わない。


 茶封筒と写真を拾い上げると、覇気のない様子で部屋から出て行った。


 モヤモヤした気分のまま、杏奈はワンピースだったものの残骸を眺めていた。


 ……あの写真の女の人、もしかしたら。


 頭の中で、とある考えが浮かぶ。


 しかしそれが真実かどうかは、多分知ることはないだろう。


 リーダーの男は、それほどまでに無口で謎めいていた。


 およそ数時間後、扉が開いて女が入ってきた。



「……」


「……何よ? ジロジロ見んなよ」


 顔に大きな絆創膏を貼った女は、不機嫌そうに言い放った。


 杏奈は言われた通り、視線を落とす。



「ほら、水浴びの時間! さっさと用意しなさいよ」


 ぶっきらぼうに言いながら、手錠の鍵を外す女。


 下着しか身につけていないから、すぐにシャワーを浴びることが出来た。


 その間にも、杏奈は女の敵意に満ちた視線にさらされていた。



「……キレイな身体ね。真っ白で傷一つない。引っ掻いてやりたいくらい」


 女が憎々しげに呟く。


 シャワーの音で聞こえないフリをしたが、言われっ放しで気分が悪かった。


 しかし、捕らわれの身としては従順に振る舞うしかない。



「あっ……」


 ふいに回転性の目眩に襲われ、杏奈はバスタブにうずくまった。



「どうしたの~? 杏奈チャン。貧血かしらァ?」


 女のわざとらしく出した高い声がすぐ耳元でキンキンと耳障りに響く。