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「……んん……」
小さな唸り声とともに、杏奈は目を覚ました。
もう随分と長い間、深い眠りに落ちていたような気がする。
ずっと、漆黒の海に漂流する夢を見ていた。
ここは……どこ?
見覚えのない白と灰色の簡素な部屋。
四畳ほどの狭い空間にあるのは、ただ一つ。
大きくも小さくもない、年季の入ってそうなテレビだけだった。
「痛っ……」
床に直接寝かされていたせいで、身体の節々が鈍く痛む。
ふと違和感を覚えて視線を移すと、右足首に頑丈な足枷がはめられていた。
鎖で繋がれていて自由に動き回れない。
「……まさか、誘拐?」
顔をしかめながら、寝起き特有のかすれた声で呟く。
この状況で冷静でいられるのは、まだ夢の中だと思えてしまうほど現実味がないからだ。
そのとき、二つあるうちの扉の一つが勢い良く開いた。


