アンケートに答えた通り、毛布が支給された。


 杏奈はそれを床に敷き、その上に座っていた。


 ハァ……。


 自分が人間じゃなく、ペットにでもなった気分だわ。


 飼い主に虐待されるペットよ!


 杏奈は何もすることがないので、ネガティブなことばかり考えてしまう。


 暴力を振るわれるのは嫌だけど、何もせずにぼんやりするだけの生活も辛い。


 本当に、奴らの考えていることが読めない。


 ピエロ男の言う“リーダー”とやらは、いつこの部屋に来るのだろうか?


 杏奈は頭の中に化け物の姿を思い浮かべて、不安と恐怖に駆られた。


 ……そんなわけないよね?


 リーダーも、ただの人間。


 きっと、見た目は貧弱そうな優男よ。


 監禁されてから、ピエロやゾンビやおかめと言った作りものの“顔”しか見ていない。


 バスルームにあるはずの鏡が取り外されていて、杏奈は自分の顔すら見ることが出来なかった。


 これも、“リーダー”の策略……?


 そのとき扉が開いて、ゾンビ男がヌッと現れた。


 相変わらず無愛想である。



「……腹、減ってるか?」


「え? ……うん」


 問いかけられ、杏奈は目線を落としながら答えた。


 あの不味いピーマン炒めを食べさせられてから、もう半日は経っているだろう。


 しかも吐き出したから、胃の中は空っぽ状態である。



「お前の好きなドーナツだ」


 そう言って、男は白い皿を床に置いた。


 ……ドーナツ?


 杏奈は嬉しさよりも、疑念を抱いた。


 アンケートに答えた好きな食べ物が今、目の前にある。


 空洞のない、砂糖をふりかけた美味しそうなふんわり系のドーナツ。


 毒が入ってたりして……。


 杏奈はそう思いながらも、ごくっと生唾を飲み込んだ。