秘密実験【完全版】




「いやっ……! 何なのこれ?」


 杏奈は顔をしかめながら、込み上げる吐き気を抑えるのに必死だった。


 見たくないのに、画面から目を逸らせない。


 先ほど見た、真っ赤な血と臓器が脳裏に焼きついている。


 ふいに画面が切り替わり、山と緑に囲まれたのどかな田舎の風景が映し出された。


 湖には、二羽の白鳥が寄り添うように浮かんでいる。


 ゴンッ ガリガリガリガリ……


 何かを叩いて、すり潰すような音が聞こえてくる。


 カメラが寄ると、黒ずくめの女がうずくまって何かをしていた。


 血まみれのその手には、斧が握られている。



「な、何……? きゃあっ!」


 ソレが映り込んだとき、杏奈はのけ反りながら叫んだ。


 女は横たわる人間に向けて、何度も斧を振り下ろしていた。


 顔面は原型が分からないほどに潰れ、肉体も損傷が激しく、かろうじて男であるということだけが分かる。


 女の顔がアップになり、カメラ目線でニタリと不気味に笑った。


 死んだ魚のように虚ろな目は、何を見ているのだろうか?


 女はやがてカメラから視線を外すと、男の死体に顔を近づけた。


 クチャ……クチャグチャグチャグチャッ


 あろうことか、不快な音を立てて、男の一部を食べ始めたのである。


 口元を真っ赤に染めながら──。



「ひぃっ……! いやぁあああッ!!」


 杏奈は耐えきれず、目をつぶって叫び声を上げた。


 耳もふさぎたいが、手の自由が利かない。


 身体の自由を奪われることが、こんなにも辛いとは思いもしなかった。


 でも、悠介は私よりもさらに苦しい目に遭ってるんだよね……。


 ごめんなさい、悠介。


 こういう精神有害な映像を見ることが私に課せられた“使命”なら、最後まで耐えてみせる──。