暗い居間に、いびきが響いていた。
ソファーに寝そべっているのは、坊主頭の森耕太郎。
「ムニャムニャ……ん?」
心地良い睡眠に耽っていた彼は、寝言を呟きながら現実の世界へと戻された。
毛布を蹴って、がばっと起き上がる。
時計は午前三時を回っていた。
嘘だろ……!?
五時間も経ってるじゃないか。
仮眠のつもりが本格的に眠ってしまったらしい。
耕太郎は青ざめながら、慌てて居間を後にした。
「真さん……怒ってるだろうなぁ」
階段を駆け下り、地下の監視室に急ぐ。
リーダーは時間や規則に厳しい男だ。
予定より二時間も寝坊した自分に、どのような罰が課せられるのだろうか。
耕太郎は小さく怯えながら扉を開けた。
「すみません、遅れまし……あれっ?」
監視室は無人だった。
低いモーター音だけが室内に響いている。
どこかに行ってしまったようだ。
耕太郎は安堵のため息を吐くが、すぐに違和感を覚えた。
「何で……消えてるんだ?」
耕太郎はモニターの異変に気づき、訝しげな表情で呟いた。
画面が真っ暗で、電源コードが抜かれている。
ドクン……ドクン……ドクン!
不吉な予感が頭をもたげ、心臓の鼓動が速まっていく。
明らかに、普段とは違う雰囲気なのだ。
ふと、机の上に置かれた白い袋が目に留まる。
それが何なのか気づいた瞬間、耕太郎はハッと息を飲んだ。
「そんな……」
真のものだと思われる、病院で処方された睡眠剤だった。
先週、車で何時間もどこかへ出かけたのは、心療内科に通院するためだったのだろう。
『オレンジ、好きだろ?』
耕太郎は昨夜、真からオレンジジュースを受け取ったことを思い出した。
寝坊するように、仕向けられたのだ。
でも……何の為に?
耕太郎は疑問と不安を抱きながら、転げるようにして監視室を飛び出した。
「杏奈さんっ……!」