秘密実験【完全版】




 身につけたワンピースに目を落とし、ゆっくり顔を上げる。


 杏奈は強張った顔に、笑みを浮かべた。



「……私、白って嫌い。汚れが目立つから」


 強がりを言ったつもりが、声が少し震えてしまう。


 白い服にはトラウマがあった。


 あれは小学五年生の頃……。


 おろしたての白いスカートを穿いて行ったその日、杏奈は初潮を迎えた。



「杏奈ちゃん、お尻のところ血がついてるよ!」


「げぇっ、ホントだ~」


 クラスメートたちの視線を一気に集め、顔から火が出るほど恥ずかしかった。


 あれ以来、杏奈は白いものは身につけなくなった。



「……ふん」


 芹沢真は面白くなさそうに鼻を鳴らすと、扉の方に歩いて行く。


 あれ、もう行っちゃうの?


 不思議に思っていると、芹沢が無表情のまま振り返った。



「髪が乾く頃にまた来る」


「……」


 バタン、と言う音を聞きながら杏奈はその場に立ち尽くした。


 ──早く乾かさなければ。


 洗面台にあるドライヤーを使い、しっとり濡れた髪を乾かす。


 パサパサだった髪は、いくらか艶を取り戻した。


 ──何だか緊張する……。


 新しいワンピースに着替えて、洗い立ての髪と身体からは心地いい芳香が漂う。


 生まれ変わったような気分に包まれながら、杏奈は部屋の隅に座り込んだ。


 妙にソワソワして落ち着かない。



「っ……!」


 扉が開いたとき、杏奈の緊張は最高潮に達していた。


 顔と身体が火照り、半ば怯えた表情で芹沢真を見上げる。


 今の杏奈は、どんな男をも魅了してしまう魔性があった。



「……お前はウサギか?」


 芹沢はわずかに目を細め、口元を不器用に歪めた。


 笑っているつもりなのだろうが、目は笑っていない。


 こんなに笑顔が怖い人は初めてだった。


 杏奈はゴクンと唾を飲み込み、目の前に立つ彼を言葉なく見つめた。