秘密実験【完全版】




 静寂を破ったのは芹沢だった。


 杏奈を見据えたまま、おもむろに口を開く。



「シャワー浴びて来い」


「……は?」


 聞き間違いかと思い、キョトンとしながら聞き返す。


 すると、芹沢は無言で手錠の鍵を外した。



「……何度も言わせるな。十分で、髪と身体を清めろ」


「っ……!」


 久々にシャワーが浴びられる。


 嬉しいはずなのに、杏奈はなぜか胸騒ぎを感じた。


 ──何か……裏がありそう。


 しかし、芹沢の視線に耐えられなくなり、杏奈は逃げるように浴室に駆け込んだ。



「ハァ……」


 小さく零したため息がシャワーの音にかき消される。


 全裸の杏奈は目をつむりながら、熱めの湯でシャンプーを洗い流した。


 約束の十分で出なければ、何をされるか分からない。


 ……もう出なきゃね。


 杏奈はシャワーを止めて、バスタオルを手にした。



「あっ……!」


 思わず小さく声を上げた。


 洗面台の上に、新しい真珠色のワンピースが用意されている。


 いつの間に……。


 杏奈はワンピースに袖を通しながら、芹沢真の周到ぶりに閉口した。



「どうだ? 着心地は」


 部屋に戻ると、壁を背にして腕を組む芹沢がワンピースの感想を求めてきた。


 どうもこうもないが、下手なことを言って怒らせたくはない。



「サイズぴったりよ。これも、誰かのお下がり?」


「……」


 杏奈の言葉に、芹沢が無言で睨みつけてくる。


 結局は怒らせてしまったようだ。


 でも、私は言いたいし聞きたいの。


 あの写真の女の人のこと……。



「それは、俺が買ってきたものだ」


 芹沢真は素っ気なく言いながら、スッと目を逸らした。


 誰かのお下がりではなく、杏奈のために買ったものと言うことだろうか。


 何で、わたしのために……?


 疑問と焦りが交錯する。


 芹沢真にとって、自分が“特別”な存在になってしまっていたら、それはそれで恐ろしい。