秘密実験【完全版】




「あ、杏奈……さん? どうしたんですか、難しい顔して……」


 耕太郎が目をパチパチさせながら、杏奈の顔を覗き込む。


 何て鈍感な男なの……。


 仲間が次々と“消されて”いってると言うのに。


 しかし、杏奈はため息をついて首を振った。



「何でもない……疲れただけ」


「そう、ですか。ですよね……こんな薄暗い部屋に閉じ込められてるんですから」


 肩をすくめながら室内を見回す耕太郎。


 仕草や表情がいちいち無邪気な子供のようで、笑ってしまいそうになる。


 頼りになりそうもないけど、今は彼しか頼れる人物がいない。


 皮肉ね……。



「杏奈さん、何か食べたいものありませんか?」


「ん……。アイスが食べたい」


「アイスですか。冷凍庫、見てきます!」


 耕太郎はそう言い残し、部屋を飛び出した。


 まるで飼い主に忠実な犬のようだ。



「……ばーか」


 杏奈は小さく呟き、そしてフッと笑みを零した。


 出て行ったきりなかなか戻って来ないことに不安を感じていると、息を弾ませながら耕太郎が扉を開けて入って来た。



「ハァ、ハァ……すみません! 探してたら遅くなっちゃって」


「遅ーい! ……捕まったのかと思って心配したじゃない」


 上目づかいに睨む真似をすると、耕太郎は少し照れたような表情を見せた。



「心配……してくれてたんですか? 僕のこと」


「……まぁね。アイスは?」


「あっ、はい! ありましたよ」


 耕太郎は後ろ手に持っていた、バニラアイスを杏奈に手渡した。


 ちっ、バニラか……。


 チョコレートが良かったけど、アイスには変わりないから仕方がない。



「いただきま~す。……って、食べちゃってもバレない?」


「平気ですよ。家にある食糧は、勝手に食べていいっていうお達しが出てますから」


 そう言って、耕太郎はニッコリとした。


 「そう」と短く答えて、アイスを食べることに集中する。


 食べ終わると、火照った身体がクールダウンして涼しくなった。


 アイスの包み紙と棒を持って、耕太郎は部屋から出て行った。


 もちろん、杏奈に手錠をかけることも忘れることなく……。