秘密実験【完全版】




 一段一段上がるたび、階段が小さく軋む。


 屋敷の中は全体的にすえた匂いが漂っていた。


 長い廊下の先に、白いドアが見える。


 ……あそこだな。


 拓馬は乾いた唇を舐め、深呼吸をした。


 堅く閉ざされた扉の向こうに、奴がいる──。


 そう思っただけで、胸の中で復讐の炎が燃え上がった。


 金属バットを左手に持ち替え、じっとりと汗ばんだ右手をジーンズで拭った。


 ──俺は、許さない。


 未来が死ぬようにし向けたお前を……!


 腹の底から湧いてきた怒りを噛み締めながら、拓馬はゆっくりドアノブを回した。


 幸い、鍵はかかっていない。


 音を立てないようにドアを少しずつ開いていく。


 ──いた……。


 芹沢真はこちらに背を向けて、椅子の背もたれに寄りかかっていた。


 微動だにしないところを見ると、仮眠中なのだろう。


 ベッドで眠らないのが彼らしい。


 拓馬は音を立てずに、真の背後に近づいた。


 震える手で、バットを構える。


 俺は……あんたを最後まで尊敬していたかった。


 でも、もう無理だ。


 未来を死なせたあんたを殺して、俺も死ぬ……!!


 ドスッ──と、鈍い音が室内に響き渡る。



「う……ううッ……!」


 拓馬は背中に重い衝撃を感じて、低い呻き声を漏らした。


 痛みよりも予想外の驚きに、頭の中が真っ白になる。


 何でだ……!?


 膝から倒れ込んだ拓馬は、首を捻るようにして振り返った。



「……背後に気をつけましょうネ? 倉重た・く・まクン」


 右手に血のついたナイフを持ち、ニヤリと笑う額田哲司の姿があった。


 ──そういうことか。



「くッ……うう……! ハァ……ッ」


 拓馬は地面に突っ伏し、フローリングの床に拳を叩きつけた。


 その拍子に背中に激痛が走る。


 くそっ……


 くそォオオオ……!!


 そのとき、椅子がゆっくり回転した。


 額に脂汗を浮かべながら顔を上げると、冷ややかに見下ろす芹沢真と目が合った。



「俺の読みが当たったようだな。……残念だよ、倉重」


 無表情のまま、唇をほとんど動かさずに抑揚なく言う。


 全て読まれていたのだ──この頭の切れる男に。