秘密実験【完全版】








 好きな女が死んだ。


 ──いや、殺されたんだ。


 “アイツ”に……。


 白いシーツで覆っていた彼女の遺体を暖炉の中にそっと入れる。


 倉重拓馬は目を閉じ、手を合わせた。



 安らかに……なんて、無理だよな?



「倉重先輩……っ」


 背後から悲痛な声が聞こえて、拓馬はゆっくり目を開けた。


 振り返らなくても分かる。


 坊主頭がチャームポイントの森耕太郎だ。


 監視室で事の顛末を見ていた彼は、ショックで気を失いかけたらしい。



「おぅ。……俺のことなら気にするな」


「でも、中野先輩が……!」


「コウタ」


 拓馬は、親しみを込めて愛称で呼んだ。


 そして振り返ると、泣きそうな顔をしている耕太郎に小さく笑って見せた。



「ちょっと手伝ってくれねぇか? ……未来をちゃんと送ってやりてぇんだ」


「おく……る?」


 不思議そうに首を傾げる耕太郎の頭を軽く小突き、未来が横たわっている暖炉を指さす。



「焼くんだよ。骨を拾ってやろうや」


「う……ッ」


 目を細めながら冷静に言う拓馬とは裏腹に、耕太郎は今にも吐きそうな感じである。


 しかし、真面目な彼は協力してくれた。


 こういうところは可愛い後輩だと思う。


 暖炉の薪に火を点けて、未来の遺体を焼いた。



「くッ……!」


 背後から、押し殺すような泣き声が聞こえる。


 悲しいのはお前だけじゃないぜ、コウタ。


 やがて彼女の肉体は消滅し、骨だけが残った。


 骨を拾い集め終わると、耕太郎は監視室に戻るため部屋から出て行った。


 即席で用意した骨壺を抱きしめながら、拓馬はしばらくその場にうずくまっていた。


 こんなことになるなら言っちまえば良かったな。


 “好きだ”って……。


 自嘲の笑みを小さく零し、我に返ったように立ち上がる。


 拓馬は視線を落とすと、厳しい顔つきになった。


 行かなければ──。


 見えない力に吸い寄せられるように、ある場所へと向かう。


 誰も立ち入ったことのない部屋で、仮眠中であろうリーダーの元に……。