それでも杏奈は何か喋らなければと頭をフル回転させながら、必死に声を振り絞った。
「……っ、どうして? 彼女は、あんたのことが好きだったのに……」
裏切って死なせるなんて、鬼畜すぎる。
真ん中の饅頭を手にしたときの中野の笑顔を思い返しながら、杏奈は複雑な気分に陥った。
とは言っても、私が死ななくて良かったけど……ね。
「ふん。好きか嫌いかなんて、俺の知ったことじゃない。……重要なのは、役に立つか否かだ」
男は顔に歪んだ笑みを浮かべながら、惨たらしい形相で床に転がる中野の死体を一瞥した。
つまり、用なしになったから切り捨てた──と。
人を人とも思わない、冷血人間なのだろう。
杏奈は怒りと恐怖を改めて感じて、グッと拳を握りしめた。
「……最低な人間ね!」
「……」
男はわずかに目を細めたかと思うと、杏奈にゆっくり歩み寄ってきた。
とっさに身構えると、荒々しく手首を掴まれた。
細身なわりに力が強く、抵抗すら出来ない。
再び手錠をかけられ、壁に突き飛ばされる。
「痛っ……」
杏奈はそのまま座り込み、目の前に立ちはだかる男をキッと睨みつけた。
彼が無表情のまま、おもむろに口を開く。
「せいぜい、死体との生活を楽しめ」
「……!? ちょっと待ってよ! こんなもの置いて行かないでっ」
杏奈は膝をつき、出て行く男の後ろ姿に必死に訴えた。
しかし、無情にも扉は閉ざされてしまう。
変わり果てた姿になった女を残して──。
「ひっ……嫌ぁ……!」
室内に悪臭が立ち込め、杏奈は喉の奥から悲鳴を漏らした。
死体を直視できず、バスルームに駆け込む。
信じられない……。
どんな神経してるの?
リーダーの男の思考回路が分からない。
杏奈は浴室の隅にしゃがみ込み、小刻みに身体を震わせた。
ふいに、背中に悪寒が走る。
「ハァ、ハァ……ッ」
息苦しくなり、喘ぐように呼吸をする。
仲間の一人を死なせたのに、男は罪悪感の欠片も持ち合わせていない。
これから一体どうなるのだろうか?
……頭のおかしな奴に目をつけられたものだわ。


