秘密実験【完全版】




 勝ち誇ったような顔をしながら、手にした饅頭を見つめている。


 もしかして、あらかじめ“正解”を知っていたのだろうか?


 そう思うと、杏奈は少し不安になった。


 何とか平静を装うとするが、足がかすかに震える。



「ふっふふ……! じゃあ早速、試食といきましょうかぁ? 杏奈チャン♪」


 上機嫌な中野は、初めて杏奈を名前で呼んだ。


 そんなことはどうでもいい。


 この饅頭が毒入りだったら……


 ──私は死ぬ。


 リーダーの男は不気味なほど静かだった。


 前髪の隙間から覗く目をわずかに動かし、二人を見つめている。


 なぜ、こんな残酷なことを思いつくのだろう。


 底知れぬ悪意に翻弄される方は、たまったものではない。



「試食……スタート!!」


 鋭く尖った中野の声に、はっと我に返る。


 杏奈は深呼吸をして、震える手で饅頭を口元に近づけた。


 嫌……、死にたくない!


 恐怖と不安から涙目になる。


 毒ってどんな味?


 苦いのかな……?


 饅頭をかじる中野の笑顔が涙で滲む。


 杏奈は覚悟を決めて、固く目をつぶった。


 ……お願い、悠介。


 私を見守っていて……!!


 心の中で強く念じながら、恐る恐る饅頭にかじりつく。


 ほのかな苦味が舌を刺激し、一瞬“毒”と言う文字が頭に浮かんだ。


 奇妙なほどの静寂が永遠に感じられたときだった。



「……うぐッ!? がぁああああああッ!!」


 中野の凄まじい絶叫が、張り詰めた空気を切り裂いた。


ぐにゃりと笑顔が歪み、苦悶の表情を浮かべている。



「……んっ! 甘……い?」


 饅頭を飲み込んだ杏奈は、驚きと歓喜の声を漏らした。


 てっきり苦いと思っていたのに。


 じゃあ、毒入りは……この女が当たったの?


 杏奈は訳が分からず、呆然としながら地面に這いつくばる中野を見つめた。


 ひどく青ざめた顔で、ダラダラと唇の端から涎を垂らしている。



「……ま、こどォ……! た、助けっ……ハァハァ……苦じいぃいいッ!!」


 中野が喉を掻きむしりながら、リーダーの男の足元にうずくまった。