当時、私は彼女の婚約者で、


突然の死をどう受け入れるべきか―――散々悩んだ。


いや



正直言うと今でも受け入れられない。


ふとした瞬間に、真奈美の吐息を感じる。真奈美の優しい視線を感じる。


真奈美の香り、ぬくもり―――



その全部が忘れられない―――




小さく吐息をついてレースのカーテンを閉めるときに気づいた。真奈美のフォトフレームの前に写真が乱雑に置かれていたからだ。


「お見合い写真?」


それが何を意味するのか―――すぐに分かったのは写真の中の若い女たちが一様に花火のような華やかで艶やかな振袖を纏っていたから。


長い袖が床に垂れていて、みんな同じようなポーズを取り、みんな作ったような笑顔を張り付けている。


気持ち悪い。


正直そう思い、私はそっとその写真をかき集めると裏を向けて伏せた。


「親父が結婚しろ、て煩くてな。やってらんねぇよ。俺ぁまだ三十五だぜ?」


彼は面白くなさそうに口からも鼻からも煙を吐き出し、眉間に皺を寄せる。


「適齢期じゃないですか。早く身を固めた方がよろしいかと―――」



それは嘘―――



嘘だ。



結婚してほしくない、と私は願っている。


ずっとずっと私の傍に―――弟でもいい、秘書でもいい。



けれどそんなことが言えることすら許されない身分。


私はわざと大きな空咳をして



「会社に変な噂が流れていますよ。


貴方が実は―――」




言いかけて私は口を噤んだ。


この後に何を続けていいのか、分からなかった。




「あなたが実は―――……の次は?


言ってみろ」




低い………不機嫌な声で先を促されて、私はますます言葉に詰まり顔を俯かせた。