ドン
遠くで大きな鳴った。
その音は深い深い瑠璃色の空の中、こだまして私の心臓まで響いてきた。
まるで鼓動みたいだ―――
西の方角では明るい緑色の光がまるでカーテンのようにうっすら引かれていて
それが花火の色であることに気づいた。
そう言えばもうその時季か―――
年中同じようなスーツに身を包んでいると、四季の感覚が鈍ってくる。スーツだけじゃない、
毎日同じような会話に毎日同じ仕事。毎日数字を追って、毎日同じ時間帯に帰る。
私の時はそれの繰り返し。気が付いたらもう四十を過ぎていた。
ドン
またも鼓動が鳴り、
「花火だな」
低い声が聞こえてきて、私はくわえたばこのまま後ろを振り返った。
「ええ、花火ですね」
浴衣の前を淫らに開けた男が一人―――ベッドの上で煙管をくわえて横たわっている。
浴衣の合わせ目から覗いたやや日焼けした引きしまった脚が無造作にベッド上…シーツの上を動き回る。
そのたびにいやらしい衣擦れが聞こえてきそうだったが、その音は遠くで鳴っている花火の音にかき消された。
なんと淫らで―――艶やかな―――……
その考えを振り払うように私は前を向いた。
「お前もどうだ?」
煙管を勧められたが私はそれを断った。
「いいえ。それよりせっかく浴衣を着ていらっしゃるのに、出かけないのですか」
「出かけない。お前の分の浴衣も用意したのに、お前はそれを着ずにずっと外ばかり見ているからつまらない」
彼はベッドの端に置かれた、きちんと畳まれた私の分の濃紺の浴衣を目配せ。
「浴衣と言うガラではないです」
私が苦笑いを浮かべてタバコを消すと、
いつもはきっちり一寸の乱れのないスーツ姿の……私が勤めている会社の若社長は、
今日はがらりと変わった浴衣姿で
子供のように拗ねて顔を逸らす。