軟派な王子様【完結】

もう帰ったよね。



その時、私の線香花火がポタリと落ちた。


「遠藤さん早いよ。」

昇君が笑う。


何でこんなに悲しいんだろう。
何かを道端で無くしてしまったような気持ち。


何か大切なものを…


違うよ。
私は別に…。



藤棚の外ではいっそう雨が強くなり、床を打っては跳ねる音がしていた。


涙が出るよ。


こらえなきゃ。


昇君がいる。


強くならなきゃ。


男なんかに悟られたくないよ。
弱いあたしなんて…。

「行ってらっしゃい。」


昇君は二本目の線香花火に火を付けながら言った。


「え??」


昇君の口元は優しく微笑み、瞳はパチパチ広がる線香花火に目が向けられていた。


「僕は遠藤さんが大好きなんだ。だから…遠藤さんには後悔なんてしてもらいたくないんだ。」


大人びた昇君の目はどこか憂いを秘めていた。


「本当は結構前から気付いてた。僕は遠藤さんのことを幸せには出来ないって…。その人は別にいるって…。でも僕は…。」


線香花火の火が落ちる。


「意地汚い男だから…。」



昇君はやっと私に目を向けた。
この場に不似合いなほど優しく穏やかな目。