軟派な王子様【完結】

どうしてだろう。


俺はあの日以来、一姫に連絡を取れなくなった。

携帯を持つたびに、あの時の一姫を思い出す。


その目は微かに潤み、唇を震わせながら固く閉じていた。


俺を睨みつけるようにして、彼女は走り去っていったんだ。

そんな一姫を思い出すと、携帯を持つ手が震えて仕方がなくなった。

こんな臆病な自分を見たことがなかった。

一人の女に溺れる自分を見たことがなかった。





電話をする勇気なんてどこにもない。

一姫の泣き顔なんて見たくない。



社長室には俺と秘書しかいない。


いつもの如く、社長室は静寂を保ち、秘書がめくる資料の紙の音しかしない。


「ぼんやりして。どうかしましたか??」

秘書が口火を切った。

「いつものことだろ。」

「そうですけど…どこか憂いがあります。」

その言葉は意味深で、ズシリと俺の胸に響いた。


「迷ってることがあるなら、社長は片っ端から当たっていく方ですから、そんな顔見たことありませんよ。」