今夜、きみの手に触れさせて



「青依は家が厳しいし、ほかに彼氏募集中の子がいるよ?って、言ったんだけどね」


なんて律ちゃんは続ける。


「たぶん矢代くんと相談して青依ってことになってるんじゃない? 去年も同じクラスだったんでしょ? 青依たち」




い……や、確かに去年、わたしは北見くんとも矢代くんとも同じクラスではあったけど。


「だ、だけど、矢代くんなんて、全然しゃべったことがないもん!」


彼の記憶にわたしがとどまるなんてこと、きっとなかったと思う。




矢代くんは――


二年のときはちゃんと学校に来ていて、いつも窓際の席からぼんやりと外を眺めてたっけ。


授業も聞いてなさそうで、提出物なんて出したことがなかった。


たいていの先生は、もう諦めてしまってるのか、矢代くんには注意もしなかったな。


休み時間は、ん~……、マンガを読んでた、かな?


北見くんたちとしゃべっていたかもしれない。




とにかく矢代くんは、誰にも何にも無関心で、ただそこに座ってるだけの人だった……。