今夜、きみの手に触れさせて



さっきから頭の中に、ちらちらと矢代くんの顔が浮かんでいた。



1回きりの思い出。

もう会えない人……。



どうしてこの状況で、彼のことを考えるのか、

自分でもよくわかんない。


だけど、ふたをした気持ちの中に、小さく小さく何かが息づいているのは感じている。




突然すぎて、偶然すぎて、

自分が信じることすらできなかった想い……。



わたしの手には負えなそうで、

怖くなって、閉じ込めた想い……。




信号が青に変わって、またペダルを踏み込んだ。


今度は少しゆったりと自転車を漕いでいく。




翔子ちゃんのお花に
藤沢くんの真っ直ぐな目に

勇気をもらって、ふたを開けてみようか。


そうじゃないと、いつか藤沢くんの気持ちに、
なんて答えたらいいのかわからない。




自分の気持ちがわかんない……よ。