今夜、きみの手に触れさせて



藤沢くんとは中1のときに同じクラスになったきりだけど、塾が一緒だからときどき言葉を交わす。


いつも落ち着いた優しい話し方をする彼は、こんなわたしでも構えなくてOKな人だった。


塾の自由演習の時間、わからない問題があると、みんなでよく藤沢くんに聞きにいくんだ。


彼は誰に対しても親切に教えてくれて、
そして、答えられない問題はない。


ホント尊敬しちゃう。




「月島さんも一校が第一志望?」


藤沢くんがちょっと首を傾げて聞いた。


『一校』というのはうちの校区のトップ校だ。




「うー、行けたらいいけど、ちょっと届かないかも」


と正直に答える。








「一緒に行けたらいいな、と思ってる」




一瞬の沈黙のあと、藤沢くんはそう言った。




「え、うん。そうだね」



街灯に照らされた彼の顔をそっと見あげると、


藤沢くんは意外なほど真っ直ぐに、こっちを見ていた。