そこで初めて矢代くんは小川さんの顔を見た。
「わりぃ、オレ彼女できたから遠慮してくんない?」
「はっ?」
小川さんの背中越しに見える矢代くんの顔が、今度は遠慮なく小川さんを見つめてる。
「うそばっか。わたしを遠ざけようって、うそついてもわかるんだから! だいたい純太ってば……」
まくし立てる小川さんの言葉を途中でさえぎり、矢代くんは言った。
「マジだから」
「うそつき! じゃあ彼女ってどこの誰よ?」
そう言われた矢代くんは、ゆっくりとこっちを指差した。
ん……?
えっ? わ、わたしっ?
驚いてちょっとよけてみたけど、矢代くんの指先はわたしと同じ方向へとついて動く。
ちょっ、ちょっと待って。それ、困る。
小川さんがものすごい形相でわたしを振り返った。
「修吾の紹介なんだわ。まー、詳しいことはヤスから聞いて」
そう言うと矢代くんは、また平然とマンガの世界へ戻って行った。
うそ……。



