今夜、きみの手に触れさせて



不思議なのは矢代くんだと思う。



昔教室で窓の外ばかり眺めていた姿も、

部屋で誰ともしゃべらずに、ひたすらマンガを読んでいる姿も、



今なら違って見えるのかもしれない。


ただのおっかない人だと思っていたけれど……。




矢代くんは心の中に、いろんな思いを閉じ込めてるんだね。


その中の少しを、こんなわたしに見せてくれた。


今だってきっと、ケガが痛むはずなのに……。






「月みたいだな……」


と矢代くんは言った。


「ん?」


「青依ちゃんってふと見ると、いつのまにかオレのそばにいてくれるから」


そんなことをまたスラッと言う。




「あ、う、うん。たまたま、ぐ、偶然……」


プラス、若干ストーカー。




「浴衣、可愛かったよ」


えっ?


「よく似合ってた」




そっ、そんなスペシャルなこともスラスラ言うんだ。


矢代くんは壁にもたれて足を投げ出したまま、こっちも見ずにそう言った。