「フー……」
額の汗を拭いながら、矢代くんが息をついた。
「サンキュ」
そう言ってこっちを向く。
「う、ううん」
ブンブンと首を横に振った。
こ、こんなの、お安い御用だ。
役に立ててうれしい。
ド、ドキドキする。
バカ。こんなときに不謹慎……!
でも矢代くんとこうして並んで座ってるだけで、ドキドキしてきて困るんだ。
何か話さなきゃ、と思うのに言葉が出ないよ。
「…………」
「家に……連絡した?」
口を開いたのは、矢代くんのほうだった。
「う、うん……。あ! 矢代くんもおうちに連絡しないと、お母さん心配してるよね?」
ケータイを差し出したけど、彼は首を横に振った。
「心配なんてしてねーから」
「え?」
「今夜は夜勤なんだ、母親」
スラッとそう言った横顔が、少し淋しそうに見えた。



