今夜、きみの手に触れさせて



「オレもまー、いい気分転換になったし」


「そっか?」


「引きこもってると、季節感ねーのな」


うだるような夏の暑さと、祭りの熱気が、ダレきった脳みそに注入されていく。




「で、そっちは? 目当ての子に会えたの?」


孝也がさっき持ち場を離れたのは、誰かを探しに行ったからだ。


『ちょっとだけゴメン!』って拝むようにして頭を下げた孝也。


協調性と責任感抜群の孝也が、あんなことを言うのはめずらしい。


よっぽどその子に会いたかったんだろーな。




「いや、見つけられなかったんだよね。早い時間なら会えるかと思って、鳥居の前で張ってたんだけど」


照れくさそうに、孝也は答えた。


「ケータイ持ってんだろ? ちゃんと待ち合わせとけばよかったのに」


ガーッと氷を削りながら、オレは声を張りあげる。


「いや、片想いだからね。しかも受験が終わるまではチョロチョロしないって宣言しちゃってるし。

偶然を装って、一目見るだけでよかったんだ」



客への応対の合い間に、孝也はそう打ち明けてくれた。