今夜、きみの手に触れさせて



「あ……」


本当にうまくしゃべれなくなって、そのままグイッと本を差し出すと、彼も無言でそれを受け取った。






ゆっくりと矢代くんの唇が動く。




「誰の彼女だっけ?」






ほ、ほらね、ほらね。


やっぱ矢代くん、わたしのこと知らなかった。


紹介の話も知らなかった。




「あ、あの……」


言えるわけがない。


『あなたに紹介されにやって来ました』なんて。


は、恥ずかし過ぎる。


矢代くんのリアクションが怖すぎる。




「バーカ。純太、お前の彼女だろーが」


そのとき、大きな声でそう言ったのは、いつのまにかそばに来ていたヤスくんだった。




「あ?」


矢代くんが目だけで彼を見あげる。




「修吾がさー、張り切ってんだよ。お前に女を紹介するって」


修吾は北見修吾。律ちゃんの彼氏。




うわ、出来れば紹介の件は言わないでほしかった。