今夜、きみの手に触れさせて



「ったくさー、純太はわがままなんだから」


なぁ、と翔子ちゃんの横に来て、ヤスくんはぼやく。


『純太』は矢代くんのことだ。




「せっかく貸してやってんのにさー。次の次の巻も渡しとこっと。いちいちうるせーし」


そう言いながらヤスくんは、翔子ちゃんのカバンの中からコミックをもう一冊取り出した。


あ、翔子ちゃんはヤスくんの彼女なんだ。


ぼやくヤスくんをクスクスと笑ってる。




それからヤスくんは「ん」と、なぜかわたしにコミック2冊を差し出した。


「え?」


「純太に渡して」


バチッとウインクなんかして、意味深に笑う。




ちょ、ちょっと待ってよ。なんでわたしが?

自分で渡せばいーのに。

てゆーか、矢代くんが取りに来たら済むのに。



なーんてことはもちろん言えなくて、でもこのままフリーズしとく訳にもいかず、わたしは仕方なく立ち上がった。