今夜、きみの手に触れさせて



『はい』


母親がキッチンで料理中だから、オレが出る。


『純太か?』


耳に当てた受話器から、ヤスの声がした。


『ああ』




『別に用事じゃないんだけどさ』


と、いったんヤスは言葉を切る。


『ちょっと声が聞きたくなったっつーか』




『は? なんだよ、さっきまで一緒にいたろ?』


オレがそう言うと、ハハハッてヤスは笑った。




『なんか純太、別れるとき




……不安そうな顔しなかった?』




クソ、バレてる。




『純太のあ~んな顔、初めて見るし、可愛くってハート持ってかれたわ、オレ』


たぶん、わざとふざけた調子でヤスは言った。




『ま、無事に帰ったってことだけ、言っとこうかなと思って。

純太ケータイ持ってねーからメールできないし、なんか大げさになっちゃったけど、』




『…………』




『じゃーな』


とヤスは短い電話を切った。