「妃芽?」 「えっ……?」 「なにボーッとしてんだよ?」 「べ、別に」 顔を覗き込まれて、とっさにパッと目をそらした。 リュウの顔を見ていると、さっきの真っ赤なルージュを思い出してツラい。 「すぐご飯にするね」 また涙がこぼれそうになって、あたしは慌ててキッチンに向かった。 こんなことで泣いちゃダメ。 リュウのことを信じなきゃ。 きっと違う。 何かの弾みに付いただけだよ。 何度もそう自分に言い聞かせた。