「…何か、御用ですか?」


怪しく思ったのか、母は私にそう言った。


「あ、いや…。何も…。ちょっと道に迷いまして…」


私はごまかそうと適当に喋った。


「そうなんですか。私にわかるところだったら道教えましょうか?」


「い、いや…」


やはりそこにいたのは、人に対して優しい私の母だった。


「夢の虹小学校は…どっちですか?」

私はそう訊ねた。


「ああ。400メートルぐらい真っ直ぐ行ったら右側にありますよ」


知っている。それは私の母校だから。


「ありがとうございます。あ、あの…」


「はい?」


「3年後の…万博には行かないほうがいいですよ」


「え?」

私の言葉に、母は戸惑っていた。


「あ、いや…気にしないで…下さい。万博には行かないほうがいいと感じただけです。ちょっと占いに凝ってまして…。では…」

「は、はぁ」


私はそのまま車を走らせた。

母は私の車を見送るようにずっと見ているようだった。

バックミラーに映った母の姿を見る私の目には、涙が溜まっていた。

私が二十歳のとき、母は万博に行く途中、交通事故に遭って亡くなった。



これが私から母に出来る、唯一の救いだと思ったんだ。