原色の涙。1

恋愛(ピュア)

moon1200/著
原色の涙。1
作品番号
1084159
最終更新
2014/08/01
総文字数
0
ページ数
0ページ
ステータス
完結
PV数
0
いいね数
0

青葉城恋唄の、
「七夕の飾りは揺れて思い出は帰らず」
この歌詞を聞く度に、いつも思い出す事がある。

学生時代優しい女教師がいた。
清楚で可憐、そんな言葉が似合う女性だった。

同じ趣味を持っていたのが親しくなるきっかけを作ってくれた。

都心から「深い緑」を観に行く選択肢の中に奥多摩があり、奥多摩は巨木の宝庫としても知られている。

杉、檜、ケヤキ、ブナ、それほど深山に入らなくても、ごく身近に観ることが出来る。
青梅線F駅から10分ぐらいの所に、市が文化財に指定しているケヤキがあり、そのケヤキを彼女は見上げていた。
私有地にあり勝手に中には入れないが、道路を隔てた歩道から全体像は見える。

彼女はそのケヤキを見上げ、写真を撮りまた見上げ、まるで魅入られたように見ていた。
「何をしているのか?変わってる……」
、とは思わないし、言わない。
私も同じ事をする積もりだったから。
「あら、あなたN高の生徒ね」
「……どうして……」
「…知ってるのかって?」
「あなた有名だから」
そう言って彼女は笑った。
「あなたA新聞に奥多摩の巨木ってタイトルの紀行文が載った事があるでしょう?」
だいぶ前に確かに読者投稿欄に載った事があった。
「でも、それだけじゃあないけどね。私もN高の教師だから」
「…………?」
見た覚えがなかった。
「会った記憶がない?……特別学部の英語の専任教師だからね」
そう言ってまた笑った。

私の通っていた高校は希望者に、特別枠の授業を設けていた。
通常の授業時間とは異なる為、顔を合わせる機会は殆どない。
「このケヤキの事も書いていたでしょう?」
彼女はよく笑った。

二人で並んで見上げた。
空が……透明だった。

これを機に都合の合う時に一緒に巨木を見に行き、時には長野、栃木に日帰りで行った事もあった。
ただ、不思議な事に恋愛感情はなかった。

或る時、
「七夕祭り見に行こうよ」
断る……理由はない。

大きな祭りで駅前から開始時間から500m道路を封鎖して、両側から大きな竹を交差させ、先端に無数の飾りを垂らす。
一緒に歩き、話し、話が途切れた時にいつしか手を繋いでいた。
小さな手で、私が握り締めると彼女も握り返してきた。

七夕の飾りがさらさらと風に鳴いていた。


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