「...さんっ!空美さんっ!」


目の前がぼんやりとする。
頭が痛い...


「.......だれ?」


はっきりと目の前の視界が映し出された。
私を心配そうに除くスーツ姿の男の人。


「あっ、よかったぁ。
私は、刑事の山田智治(やまだともはる)
と言います。」


「あ...はい。」


にっこりと笑う彼になぜか心が落ち着く。

「あの...ここは、病院?」


辺りを見回すと、きちんとたたまれたシーツとまくらがのったベットが並んでいて、私もそこで寝ていたらしい。

「...ぁ、えっと思い出せませんか?」

思い出す?
よくわからない。

記憶というものが思い出せないとかじゃなくて
記憶がぼんやりしていて何が何だかよくわからない。
最近の出来事を鮮明に思い出せるのは、大学の先生の髪の毛がヅラだったことなんていうしょうもないことで...。

「はい。」

「んー、そうかー」

少し困った様子で眉間にシワを寄せた
山田さんという人は、ポケットから手帳を取り出した。

「あなたは昨日、山口みかという方を尋ねています。そして、その山口みかさんは、おとといの殺人未遂事件の被害者です。」


...山口みか。


「あ、えっと...」


みか。

という二文字で脳の記憶装置にはられたボヤが取り払われて行く。

そして、鮮明に記憶が戻るまで時間はかからなかった。


「...わた、私は、えっと...みかに」


言葉、そして体が次々と震え出す。

あ、そうだ。

私は殺されかけた。


「空美さん、ゆっくりでいいです。大丈夫です。深呼吸して...」

山田さんは優しく背中をさすってくれた。


「え、えっと、ああ、ひゅっふっあっ」


しんどい。
苦しい。
息ができない。

鮮明に脳裏に刻まれた光るナイフ。
そして、みかの異常じゃない瞳の怖さ。
耳を疑うような激しい悲鳴。


ゆっくりと、鮮明に...はっきりと、思い出した。