【短編】焼き芋と土曜日

「奈央(なお)。久しぶりじゃん」

懐かしい笑顔を浮かべ、嶋尾君が軍手をはめた手でわたしの肩を押した。

「あ、うん。久しぶり」

なるべくすっぴんの顔を見られないように、斜め下を見て呟く。

「なになに? 家、この近くだっけ?」

「うん。すぐそこ」

「へー。そうなんだー。俺、先週からこのバイトはじめてさぁ。

ここら辺が、テリトリーなんだよ」

マキを片手に、コンコンと屋台の骨組みを叩いた。

そして、

「焼き芋、買うか? おまけしてやるぞ」

営業スマイルではなく、昔のままの笑顔で芋を指差す。