ーまずは、ぼくの生まれた故郷の話からしようかな。

  ぼくは、ベネラウス大陸の北に

ある、ファンネルという小さな国で生ま

れたんだ。そこは年中寒い土地で、農作

物もほとんど育たない場所だったから、

人もまばらにしか住んでいなかった。

だからね、新しい子供が生まれると、国

中で小さなお祭り騒ぎになるんだ。

そのお祭りでは、新しく生まれた赤ん坊を

水晶でできた文字盤の上にのせ、ヴァルト

の天性の才能があるかを見分けるんだ。も

ちろん、ただの儀式のようなものだら、実

際に文字盤が発動するなんて誰も思ってな

かった。実際、それまでに発動したことは

一回もなかったらしいしね。

 …でも、ぼくは発動してしまった。他の

赤ん坊と同じように文字盤の上にのせられ

ただけなのにね。それからぼくは、10歳に

なるかならないかの時に国を出て、ウェル

バー王国にあるウェルバー王立図書館で、

ヴァルトの勉強をしに行ったんだ。あぁ、

ヴァルトっていうのは、物語によくでてく

る魔法のようなものだよ。ぼくには、幸い

天性のヴァルトの力があったから、本を読

むだけで理解することができて助かったよ。

普通の人がヴァルトを習得しようとしたら

、お金持ちが通う魔法学校に入らなければ

ならないからね。

そうしてぼくは、一人でヴァルトを習得し

ていったんだ。それで、ある程度ヴァルト

が使えるようになった頃、ぼくはもっと上達

させるために、ハウスビットっていうヴァル

トにたけた国に行こうとしたんだ。


 ーでも、それは叶わなかった。


 ハウスビットへ旅立とうとした日の早朝

、なにものかがフェンネルを襲ってきたん

だ。
 
 ーヴァルトを使ってね。

 ヴァルトっていうのは、善にも悪にもな

る。使い方によれば、性質そのものがかわ

ってしまうんだ。

 奴らはそれを利用した。

 そして、フェンネルは焼け野原となり、

国の大半の建物が崩壊してしまった。沢山

の人が亡くなったよ。なんとかして子供た

ちだけは、隣の国の教会に預けることがで

きたけど。…あそこでは、ぼくの力なんか

では歯がたたなかった。奴らにとって、しょ

せんちっぽけな力だったんだろうね。

 そこまで一息に話すと、少年はため息をひとつついた。

 「ーという訳で、ぼくの身に起こったことはだいたいこのくらいかな。そ・こ・で、キミに手伝いをしてほしいんだ」

 そう願う表情は真剣で、彼の瞳には、哀しみや怒り、そして強い意志がこもっていた。