等間隔で整然と並ぶ石は、90度向きを間違えたドミノのようだ。

どれも同じに見えた。

芝のグリーンの上に、薄ら寒い色の列は儚くも映える。

そこには、秩序が生み出す美があった。

そしてどこにも、個は見当たらなかった。



君は規律の中にいた。

強烈な個を消し、混沌と他に同化していた。

それが酷く哀しかった。



足元を掠めて、ソリッドホワイトの猫が駆け抜けていった。

追い抜いたと思ったら立ち止まり、こちらを振り返って小首を傾げる。

尻尾がぴんと立って2度揺れた。

笑われたような気がした。

こっちを見つめたまま顎をしゃくる様は君によく似ていた。

後を追って一歩踏み出すと、彼女も前を向いて歩きはじめる。



――こうして。

僕はずっと君の後を追いかけていればよかったのに。

ただそれだけで、良かったのに。



猫が立ち止まり、石に頬を寄せて目を細めた。

僕もそこで立ち止まる。

膝をついて座り、そこに刻まれた文字を、指でなぞった。

何かが芝を濡らした。

その時にはもう、白猫は消えていた。

初めからそこにいたのかどうかすら怪しかった。



約束などしてはいけなかった。

――否、約束した以上、信じなくてはいけなかった。

どれだけ彼女が嘘を重ねても、その一番下にある真実だけを。



愛していた。
だから、赦せなかった。

憎んで、恨んで、傷つけたいと思った。
自分が傷ついた以上に深く。



『また言ってくれる? 愛してるって』

言うよ、僕は、何度でも。



『あなたを愛してる。同じだけ愛して』

君が望むままに。

それ以上に。



『さよなら』



赦せなかった。

君がどうしてそうしたのかなんて、考えられなかった。

傷つけられたのは自分だと思っていた。

君が傷ついているなんて知らなかった。

それが僕のためだなんて、思いもしなかった。

嘘の裏側を、見抜けなかった。

信じ続けることが出来なかった。



風が森を揺らした。

ざわめきが現実に引き戻す。

ソリッドホワイトの猫が、石の上から僕を見下ろしていた。

手を伸ばせばするりと逃げる。

けれど彼女は何度も振り向いて。



きっと僕が追いかけるのを、待っている。